目指したのは、自分の手のように扱える
建築設備用CADソフト
「今でこそダイテックといえば建築設備用CADというイメージが強いですが、元々は石油販売業向けPOSシステムの開発・運用といったソリューション事業からスタートした会社なんです」
溝口さんも入社当時はソリューション事業部に配属されていたとか。では、なぜ今日のCADソフト開発を行うようになったのか。それは……
「とある電力系の会社から、世の中に設備図面をきちんと描けるCADが少ない、一緒に作らないかと、話を持ちかけられたのがそもそものきっかけだったと聞いてます。そこである高性能CADソフトをベースに作ることになったんです」
こうして1987年に完成したのが、ダイテックのCADソフト第一号となる建築設備業向CAD。初のCADソフトにも関わらず、これがそこそこの売れ行きを見せる。そんな状況に社内でも本格的に開発をしようという声が大きくなった。そして1991年、初代CADWe'llが誕生する。その後、開発終了となる1999年まで、バージョンアップを重ね次々と新バージョンを発表。約9年に渡りユーザーの信頼をしっかりと勝ち取っていった。
「CADWe'llが出た1991年という時代は、ウインドウズもありましたが、今のように高性能ではなかったんです。当社ではIBMのOS/2というOSを採用していたんですが、それでもメモリーも少なく、座標空間も狭い、計算なども時間がかかるなど制限は多かったんです」
そこでWindows95の登場をきっかけに、1からウインドウズに対応した強力なシステムを作ろうと開発をすすめることになったとか。これが後のCADWe'll CAPEだ
「ちょうど開発を進めるのと同時期に、某大手サブコンさんで新しいCADの開発プロジェクトがスタートしたんです。それならばということで、会社としてコンペに参加しました。結果、当社が選ばれ共同開発という形で新しいCAD作りがスタートしたんです。当時のCADは、ダクトであれば空調の流れを指定して静圧計算もできるなど、すでに高機能ではありました。ただ、タブレットやメニューシートなどを使用するものが多く、描くという作業においては非常に効率が悪かったんです。要は頭ばかり大きくなりすぎてしまい、実際に描きやすさという作業を置き去りにしてしまった。ですから、まずはいかに使いやすくするかということが重要でした」
実際に溝口さんもこの開発にリーダとして参加。現場が本当に欲しているCADソフトというものに関してとことん設備技術者たちと話し合ったとか。そんな時、共同開発先である某大手サブコンから言われたのは、感覚で操作ができるようなCADソフトを作って欲しいということだった。
「いちいちメニューの中から、機能を「ああだ、こうだ」と探しているのでは“使えるソフト”ということにはならない。感覚的に、あっこれだったな。ここでこうして、これでできるかな。あーできたできた、みたいな形で全部できるようにして欲しい。だから機能をできるだけ集約した形で、コマンドボタンも5つ以内にしてくれと言われました(笑)。さらに会議を進めていく上で、設備技術者の方たちが一番CADソフトに望んでいたことも分かってきたんです。それは“納める”ということ。図面というのは現場で微調整を繰り返しながら仕上げていくものです。その中には梁を少しずらすなんてことも日常茶飯事に起こります。言うのは簡単ですが、その少しのずらしの際にも、ソフトはバルブや配管などすべてのものを同じように移動させなければなりません。要は、先の先まで見てどこまで影響があるかということを瞬時に判断し、それに付随するすべての事項を整合性が取れた形で移動させなくてはならない。それを実現させたのがCADWe'll CAPEなんです」
毎月、隔週の割合で三日間の缶詰状態で行われた企画会議。そんな溝口さんの苦労の甲斐もあってか、CADWe'll CAPEはその使いやすさがユーザーに大好評。現在では国内シェア6割という設備CADソフトを代表する存在となった。そしてこのCADWe'll CAPEから9年後の2006年。三次元化表示機能を搭載したTf@Sが登場する。このTf@Sを開発するにあたっての経緯のひとつに、ユーザーのある使い方があった。
「CAPEは2004年バージョンでほぼ完成をみていました。そこで次に新たなものを開発しようと考えていた頃、あるユーザーがCAPEで作成した図面を三次元CADソフトで見るということを行っていたんです。それならばそういうCADソフトを作ろうということで、開発されたのがこのTf@Sなんです」
三次元CADソフトの場合、二次元とは違い数値の入力に非常に手間がかかるという問題があった。そこでTf@Sは二次元で作図した図面を三次元表示させることで、その問題をクリアしたのだ。
「この三次元化表示機能により、梁や壁、配管やバルブ等を平面図上で作図しておけば、三次元にて配管のイメージや配管の干渉チェックを行うことが可能になりました。特に配管が密集している機械室等においては、とても有効だと思います」
国内シェア6割という圧倒的支持を誇るCADWe'llシリーズ。今では設備系の求人企業が応募条件の必須スキルに挙げるほどの普及率。それだけに社会的責任も念頭に置いたうえで今後の事を考えなればならないと溝口さんは言う。
「次のCADエンジンがどうなるのかが一番のポイントになってくると思います。今後、建築の構造、意匠という世界と設備の世界とはシームレスなデータの世界になっていくと思うんです。そうなったときに当社が今のように独自のエンジンを使っていると、その中に混ざっていけない可能性があります。そうしたときに、ブルーレイとHD DVDのようにCADの世界においての標準を見極める、ということが非常に大事になってくると思います」
多くのユーザーに支持され続けてきたソフトだからこそ、そのユーザーを裏切ることなく新たな領域へと引っ張って行かなくてはならない。それがこれからのCADWe'llシリーズに課せられた使命でもあり責任でもあるのだろう。
CADWe'll CAPE2007
驚異的な作図スピードを実現する設備専用機能、ダクト・配管を簡単作図できるルーティング機能、さらには数量拾いなど、使いやすさ、生産性を幅広くサポート。またAutoCADとの図面変換については、レイアウトや外部参照情報まで含めた精度の高いデータ互換が可能。さらに、DWFによる図面データのレビューも実現している。加えてSXF、電子納品対応などCALS/EC、標準化への対応も万全。これまでの採用実績は、グラントウキョウノースタワー、六本木ヒルズ、東京ドームシティ遊園地をはじめテレビ局社屋や空港など。日本を代表する様々なランドマークの設備工事で活躍した最優秀ソフトなのだ。
CADWe'll Tf@S2007
CADWe'll CAPEの進化版総合設備CADであるCADWe'll Tf@S2007。最大の特徴は、三次元化表示機能の搭載である。CAPEより受け継いだ操作性で、素早く仕上げた図面を、ワンタッチで高精細に三次元表示させることが可能だ。また、他CADとの互換性に対しても、AutoCADやJw_cad等との図面互換はもちろん、DWFを利用したデザインレビューにも対応している。
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
[了]
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未来に残る建物を描くのはキミだ!設備・意匠・構造の設計の仕事
プロフィール 株式会社ダイテック。企業や社会・産業が抱える課題を解決する“ソリューションビジネス”で、社会の役に立ちたい」という創業者・堀会長の思いのもと、コンピューターが一般に普及する以前から、業務の課題を解決する情報処理サービス、ソフトウェア事業などを手掛けてきたパイオニア的存在。現在ではソリューション、パッケージソフト、IDC、デジタル印刷、貸室、名古屋ブルーノートの運営など、多岐に渡り事業を展開。各分野でニーズを先取りした先進的な技術を投入することで、ユーザーの高い支持を得ている。
株式会社ダイテック
http://www.daitec.co.jp/
今回お話しをお伺いした技術事業部 東京事務所 所長の溝口直樹さん(左)と主任の郡章さん(右)。ちなみに溝口さんが開発に携わったのは1993年から1995年にかけてのCADWe'llの時代からだとか。その後1997年のCADWe'll CAPEで空調衛生設備版の開発リーダーを務めている。
CADWe'll CAPEの操作画面
この一見複雑な図面も直感的な操作で作図できるのが特徴
CADWe'll Tf@Sでの3Dビュー画面
ウォークスルー機能で配管ルートを追って行くことも可能
CADWe'll Tf@Sでの3Dビュー画面
カラフルに色分けされたダクトが美しく並ぶ
ダイテックの開発オフィス
ここがCADWe'llの開発拠点となっている