「描くの、すき」——その原点は“和”への憧憬
衣装制作、空間制作、インスタレーション……。
“描く”キーワードに多方面にわたって活躍するアートクリエイター神田サオリ氏。建築と同じく"モノづくり"に携わる表現者である。
肌・土・紙・衣など様々な素材をキャンバスに見立て、音・映・踊・灯との融合で表現される作品の数々は、“絵画”というジャンルとは一線を画す。
その根本にあるのは、海外で過ごした幼少期に培われた“和”への憧れだった——。
「私は父の仕事の関係で2歳から3歳半までバグダッド、小学校2年生から6年生までをドバイで過ごしました。だから小さいころの私にとって、日本にいる親戚や知人が贈ってくれる日本の折り紙や玩具は、“珍しい外国製品”として目に映り、同時に日本という国への憧れを自然と抱いていました」
日本人でありながら異国で幼少期を過ごす。あらゆる文化が交錯した彼女の身体の中には、この生活環境が大きく影響したようだ。そして帰国してからは、一層“和”に対する興味、関心が高まっていく。
「日本での生活が再スタートしたときは、見るものすべてが新鮮でした。そして“和”の美しさに惹かれて感じることもたくさんありました。いろいろな国に、それぞれの“きれい”が存在する中で、日本の“きれい”もまた、独自の美しさなんだということを…」
美に対する嗅覚の発達と同時に、彼女は、神田サオリという自分を表現する方法も自然と探し始めていた。そう、そのツールこそ“描くこと”だったのだ。
「とにかく描くことが好きでした。学校の授業もプライベートも関係なく、とにかく描いていましたね。好きが高じていろいろな場所に描き出かけることで、キッカケや人の繋がりが増えていき、気がついたら、林明日香プロジェクト(※1)や海外でのライブペインティングの仕事がきたりと…。すべては小さな繋がりから始まったものばかりです」
今回“和の美しさが好き”と話す彼女から、我々は忘れかけていた“日本の美”を再認識させられた。それは、日本特有の侘び寂びや礼儀を重んじる精神、職人技術も同じで、時代の変化とともに衰退していくものでは決してない。むしろ守り貫く志が必要である。神田サオリの作品に触れて、もう一度“和”を見つめてみたい。
(※1) ミュージシャン、林明日香さんのCDジャケットデザインやボディペインティング、スタイリングを手掛けるほか、トータルビジュアルコーディネーターなどを手がけた。
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
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プロフィール かんださおり。山口県生まれ。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。幼い頃バグダッドとドバイにて育つ。躯と紋様をテーマに絵画、衣装制作、BODYPAINT、LIVEPAINTを国内外で多数行う。林明日香、shuuemura、EDWIN、gold sign、H.P.FRANCE[水金地火木土天冥海]YAMAHA等のARTWORK、NY[D&A]でのLIVE PAINT、上海ART FAIR 参加等。2006年より東レDCAの審査委員を務める。
神田サオリオフィシャルサイト
http://www.saorian.com/
キャンバスは真っ白な鳶装束。筆先から次々とアートがこぼれおちる
自らペイントしたTシャツを身にまとって
安全靴も彼女の手にかかれば幻想的かつスタイリッシュに変身してしまう