• HOME
  • Monthly Pickup コーデノロジスト 荒川修作

2007年12月7日

荒川修作氏写真

コーデノロジスト 荒川修作

天命反転…、なんて刺激的で魅惑的な響きなんだろう。
生命の建築をコンセプトとする“三鷹天命反転住宅イン メモリー オブ ヘレン・ケラー”を手がけた荒川修作氏を単なる建築家と呼ぶのは相応しくない。アーティストでもありコーデノロジストでもある同氏にとって手掛ける作品は目的を達成するための手段である。“有機体=人間”を取り巻く環境すべてを生命と考え、その生命に溢れたコロニーを再構築することを常に念頭に置いている。今や世界中の哲学者や分子生物学者にも注目されており、2005年10月には、パリ第10大学で「建築と哲学」と題した国際シンポジウムを開くなど、国内はもとより海外での評価も高い。
INTERVIEW:上野健太郎

建築することは、生命をつくるっていうこと

建設WALKERには“理想建築研究所”というコーナーがあります。荒川さんにとっての理想の建築とはどの様なものでしょうか?

それは“天命反転ホテル”構想です。これが出来たら今までのホテルのイメージはいっぺんに変わりますよ。天命反転住宅を見に来た方々は、お子さんからおばあさん、おじいさんまで全員、「こういうホテルがあったら絶対泊まりたい」と言っています。今、このプロジェクトに興味を示しているのはレバノンとニューヨークとパリの事業家ですが、私どもとしては最初の“天命反転ホテル”は日本に創りたいと思っているのですよ。

荒川さんが今後取り入れたいと思われてる新しいアイデアを教えてください。

天命反転住宅には間に合いませんでしたが、現在、工房と共同で製作を進めている“天命反転バスタブ”を次の計画では是非使いたいですね。お湯があなたを抱いてくれる素晴しいバスタブです。

今後、日本で建築を進めて行くにあたり、これだけは伝えたいということはありますか?

現在、日本だけでなく、世界中の全ての物事が物質文明の悪い面ばかりを発展させ、人間が本来もっていた共同体としての意識がなくなりつつあります。

「なぜ今だに私たちは戦争をしているのか?」
「何のための文明なのか?」
「なぜどんな人も健康であることに必死になるのか?」
「なぜ人は死ぬと決めつけているのか?」

日本をはじめとした先進国では、お金を持っていれば持っているほど、他人を信用できなくなっていく人がほとんどです。
日本には昔から“向こう三軒両どなり”というすばらしい考え方があります。向こう三軒がどんどん隣り合って行けば、自ずと共同体が生まれます。人間は勉強をし、技術を持ち、文明を発展させてきたのですから、その方向を正した現代版の“向こう三軒両どなり”ができないわけがありません。今、思いつきましたが、建設WALKERさんがそれをやりませんか?(笑)
私は建築も含め、21世紀を本当に変える力を持つのは日本だと思っています。今こそ生命文明に向かい、私たちが与えられた条件(環境)を使い、身体の持つ限りない可能性を追求するのです。私はそれを建築というフィールドを借りて行っているのです。私たちの時代にすべてを実現しましょう。

荒川修作氏のメッセージは、我々現場に携わる人間に建築の可能性、そして建築物と人間との関わりという意味を改めて考えさせてくれる。

三鷹天命反転住宅 イン メモリー オブ ヘレン・ケラー
球体、円筒、立方体のユニットをランダムに積み重ねた極彩色の外観、内装は偶然性や不思議を日常的に体感することで、好奇心や意欲を生み出す。すべての床が曲面からなり、デコボコで傾斜しているフロアではバランスを保ちながら歩かねばならず、普段、滅多に使わない足裏の床に触れない部分など身体の筋肉やパーツを刺激し、適度のストレスをあたえ血流を促し、脳を活性化させる。また、傾いた床面は背骨に優しい。通常のフラットな床面では平衡を保って歩くため、同じところに重心がかかり背骨に負担をかけるのだ。球体の部屋は床も球体である。室内で座るにしても寝るにしてもバランスが必要だ。中央の大きなダイニングキッチンを囲むように、球体や立方体の部屋、シャワールーム、トイレが配置されているため、直線で移動できず、遠回りしないと部屋に入れない。傾いた洗面所からは、身体をひねりシャワーブースの横を通りぬけないとトイレに辿り着かない。キッチンは大きく凹んだすり鉢状。収納スペースはまるでなく、天井のフックやポールに吊すなど工夫が必要だ。床が傾斜しているため、家具の類も制限される。そう、この建物は非常に住みづらい反バリアフリーの住宅である。現在主流であるバリアフリーのフラットな居住空間が人間に本来備わっている自然への創造的抵抗力を退化させるとも言える。しかしこの反バリアフリー住宅は人間の潜在的な知覚を目覚めさせ、精神と身体を活性化させる。今までの住居概念を根本から否定し挑戦する、全く新しい発想の有機体的建築物なのだ。

総戸数9戸
敷地面積452.56m2
建築面積260.61m2
延床面積761.46m2
構造壁式プレキャストコンクリート造、鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
専有面積52.38m2〜60.65m2
間取り2LDK〜3LDK
価格89,060,000〜99,870,000円
建物竣工平成17年10月中旬
設計・監理株式会社安井建築設計事務所
施工株式会社竹中工務店
URLhttp://www.architectural-body.com/mitaka/

養老天命反転地

開園時間午前9時〜午後5時(入場は午後4時半まで)
休園日月曜日(祝日の場合はその翌日)
年末年始(12/29〜1/3)
※荒天の場合は閉園することがあります。
入場料大人 710円(510円)
高校生 510円(360円)
小中学生 300円(200円)
小学生未満 無料
()内は20名以上の団体料金
住所岐阜県養老郡養老町高林1298-2養老公園内
電話0584-32-4592
URLhttp://www.yoro-park.com/j/rev/

※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。

[了]
« 左官工 久住有生氏 | 建築家 白井順二氏 »

建設WALKERエージェント─建設業界、一人で迷っている人へ─専任アドバイザーが転職活動を徹底支援!サイト掲載前の非公開求人情報も豊富です!

プロフィール あらかわしゅうさく。1936年名古屋生まれ。1961年より渡米。以来ニューヨーク在住。その後、妻であるマドリン・ギンズと出会い、共同作業を開始。国内外で高い評価を受けるアーティストとして数々の作品を制作。三鷹天命反転住宅(三鷹プロジェクト)をはじめ、主な代表作に志段味プロジェクト(愛知県)、ガルマン邸(N.Y.)、奈義の龍安寺(岡山県)、養老天命反転地(岐阜県)など。著書も多数。

写真

「コーデノロジスト」とは、芸術・哲学・科学の総合に向かい、その実践を推し進める創造家のことである

写真

製作中の天命反転バスタブと荒川氏

写真

施工中の三鷹天命反転住宅にて

写真

天命反転ホテルイメージパース