アキラ | 白井さんは趣味としてインドの遺跡をCADで再現されているそうですが…。きっかけは何だったんですか? |
白井さん | じつは大学を卒業した直後、1年間だけ講師としてインドにいたことがあるんですよ。当時、生徒たちと一緒にいろいろな遺跡を見学に行き、その美しさの虜になりまして……。とにかく美的なんですよ |
ユーカ | どの辺りが美的なんでしょう? |
白井さん | そうですね。空間が持つ圧倒的な力というか…。例えば、これは階段式の井戸※1なんですけど、4層になっていて深さは15mぐらいあります |

白井氏が3Dキャドで再現した階段式井戸
リエ | すごい!いつ頃造られたものなんですか? |
白井さん | たしか16〜17世紀ぐらいです。当時のインドはイスラム教のムガール王朝※2に支配されていたので、イスラム様式の建築物がいくつも造られたんです。ヒンズーの石工たちが造るイスラム建築は、ところどころにヒンズーのエッセンスが見え隠れしていてとても面白いんですよ |
アキラ | なるほど… |
白井さん | もっと大きいものでは、7層のものもあるんですよ |
リエ | 地下7階って言ったら、まるで大江戸線じゃないですか! |
ユーカ | それにしても、どうしてタテに井戸を掘らなかったんですかね? |
白井さん | それは、ただ水を汲むための井戸ではなかったからでしょう。この広い地下空間は、井戸水に冷やされて地上よりも気温が低かった。つまり、人々が集って涼むための場所でもあったんです |

【7層の階段式井戸】雨期と乾期の水量の増減を計算した設計になっている。(左)
【階段式井戸の内部イメージ】人々の憩いの場となっていた。(右)
アキラ | 当時の人々の生活の一部になじんでいたんですね |
白井さん | そうです。こちらの建物はサルケージュ※3という王宮の跡なんですが、250m四方の大きな人工池があるんです。人々はそこで船を浮かべて遊んだり、水牛を連れて一休みしたりしていたんでしょうね。その周りの建物には、風を通し、美しい陰影を生むさまざまなデザインが施されている。私は当時の人たちの生活や、造った人たちの情熱やエネルギーが伝わってくる、そういう建物が好きなんですよ |
リエ | わかります!私もアンコールワット※4に行ったとき、建物と空間が醸し出すパワーをすごく感じました! |
アキラ | それって、インタビューの『建物を取り巻く空間に興味がある』というお話とリンクしますね |
白井さん | そうですね。私たちは人々の幸せな生活を演出する“舞台装置作り”を託されている職人だと思っています。土木や建築は基本的にすべて手仕事です。つまり、最後に現場にできるモノはそこで働く人々の手によって完成されるわけです。設計に携わる人も、現場に携わる人も、みなそういう認識と気概をもって仕事をして欲しいですね |
アキラ | …肝に銘じます |
白井さん | 今の日本は30年ぐらいですぐに建物を壊してしまいますよね?そうすると、作る方も『30年ぐらいもてばいい』というつもりで設計してしまうものなんですよ |
ユーカ | そう考えると、たしかにちょっともったいない気もしますよね |
白井さん | 長い長い時の試練に耐え、さらにそこで暮らす人がすべて“快適”と思える建物。それが私にとっての究極の理想建築かもしれません |

【サルケージュ】インド・グジャラート州アーメダバードの西にある150m四方の人工湖。田畑への給水や、岸辺は洗濯場になるなど生活に根付いた施設だ。乾期には中央の小島で沐浴も出来る。
(※1) 旧約聖書の『創世記』に出てくる伝説上の巨大な塔。創世記によれば、かつて地球上の人々は統一された言語を持ち文化を繁栄させ、人類の力を誇示するために天まで届く塔を作ろうとしたという。ところが、その行為を見て怒った神が人々の言葉を乱し、意志の疎通をできなくさせて塔の建設を阻止した、というストーリー。
(※2) 1983年に発売されたファミリーコンピューターの略称。8ビットCPUを搭載し全世界で6000万台以上を出荷。2003年9月をもって製造終了。製造ラインの一番最後のファミコンは「ラストファミコン」と呼ばれ任天堂が保有している。
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
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