2014年10月31日
カジマ・リノベイト株式会社 代表取締役社長
金岡 稔氏
高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化対策が社会問題となっている。鹿島グループのカジマ・リノベイト株式会社(本社:東京都新宿区)は、このような時代の到来を見越し、1994年に既設構造物の補修・補強工事の専門会社として設立された。金岡稔社長に、インフラの維持管理市場の動きや同社の特徴的な技術などについて聞いた。 取材・構成/日刊建設工業新聞
成熟社会を支える“補修・補強時代”の担い手。
「新設工事と比べ地味だけれど、インフラの延命化は成熟社会を迎えた今日、環境面や財政面などから非常に重要な取り組みだ。供用後年数の経った構造物が補修・補強によってきれいによみがえり、長く使われているのを見ると、自分たちの仕事に対する誇りを実感できる。当社の社員もこうした誇りを胸に、日々、業務にいそしんでいると思う」と、金岡社長は、補修・補強工事に対する使命感をこう説明している。
バブル経済が崩壊し、高度成長時代に幕が下りた90年代初め、新規構造物の工事を主事業としていた建設業界は大きな曲がり角を迎えていた。当時、鹿島では大型案件が減少する中で、新たな柱となる事業の確立が課題となっていた。その一つとして、既存インフラの老朽化対策に着目した。そこで、近い将来顕在化してくるであろう維持管理のニーズに応え、補修技術に精通した人材も育成するために専門の会社を立ち上げようと、補修・補強工事を担当する当社と調査・設計を行うリテックエンジニアリング(株)が設立された。
両社が発足した翌年1月、阪神大震災が発生。高速道路の倒壊など、耐震性や耐久性が半永久的と考えられていた多くのコンクリート構造物が損傷し、劣化診断や耐震補強対策の必要性が叫ばれるようになった。その後も、中越地震や東日本大震災といった大規模地震が相次ぎ、さらに南海トラフ・東南海地震などへの備えからインフラの補修・補強・更新工事の重要性が増している。
独自工法・材料を開発し、多様化するニーズに対応。
現在、同社が特に売り込んでいる技術が「CCb(セラミックキャップバー)」工法。古い耐震基準で設計されているためにせん断耐力が不足している鉄筋コンクリート構造物(主として地下構造物)を対象に、躯体を削孔し、ファインセラミック製の定着体を取り付けたせん断補強鉄筋を挿入し、グラウトで固定してせん断補強する。東日本大震災後、上下水道施設、取放水施設、水門の補強などで全国的に採用されているそうだ。
また、コンクリートの表面に塗布することではっ水効果を高め、水や塩分などの劣化因子の内部への浸透を防止するマジカルリペラーの受注も好調。十数年にわたる実際の構造物での試験で性能が維持されていることが実証されており、橋梁などのコンクリート構造物の長寿命化・予防保全に適用されている。その他にも、空港のデッキなど環境条件の厳しい構造物に向け、鋼繊維、有機繊維などを混入した高強度繊維補強コンクリート製品を鹿島と実用化している。
金岡社長は「構造物の補修・補強需要も徐々に内容が多様化し、変化してくると思われる。その時に備えて会社が永続していくためには、新しい領域の開拓が必要」と述べながら、「建設業をベースに周辺領域への拡大を目指す精神を今日まで受け継いでいる鹿島グループの一員として、建設業にこだわりつつ、従来の範ちゅうにとらわれない感覚で挑戦していきたい」と今後への意気込みを語る。
【取材後記】
昨年、太田昭宏国土交通大臣が「2013年をメンテナンス元年としたい」と発言してからまもなく2年。この間、老朽化したインフラの維持管理・更新計画が着実に打ち出されている。人々の暮らしや社会活動の基盤となるインフラの安全、安心の確保に向け、構造物の補強・補修専門工事会社として同社の活躍の場がますます広がりそうだ。
[了]
本社:東京都新宿区住吉町1-20
設立:1994年8月11日
資本金:3億円
売上高:49億5,700万円(2013年3月期)
従業員数:80名(2014年3月)
事業内容:土木構造物の調査・診断/補修・補強工事
金岡稔(かなおか・みのる)
1969年 名古屋工大大学院土木工学科卒業、鹿島建設(株)入社
1990年 東電富津6号タンク工事事務所長
1996年 東京湾横断道路出張所長
1998年 東電富津地下タンク工事事務所長
2001年 東京支店次長、土木技術本部次長
2003年 カジマ・リノベイト(株)代表取締役社長、現在に至る
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
« (株) 地圏総合コンサルタント 地盤技術部課長代理 中川 清森氏|
(株)タカボシ 代表取締役社長 石山武司氏
同社唯一の技術系女性社員、神谷由紀さん。技術資料や工法のパンフレットの作成などの業務を担当し、現場や営業を技術面からサポートしている。
「CCb」施工状況。耐食性に優れるセラミック定着体をコンクリート表面付近に配置できることから、定着部の耐久性を確保すると共に、優れたせん断補強効率を実現する
「CCb」施工状況。地盤側に先端型定着体を内空側に後端型定着体を取り付けたものが標準だが、密な配筋の梁などで後端型定着体の挿入が困難な場合には、両端とも先端型定着体とすることができる。
「マジカルリペラー」。コンクリートに浸透しやすく、かつ揮発しにくいように工夫された2種類のシリコーン分子を混合。有機溶剤を使っていないため、環境にもやさしい。
「マジカルリペラー」による吸水防止層。
「マジカルリペラー」の施工状況。無色透明で、構造物の外観を損なうことなく延命化を図ることができる。