2012年08月31日
アーパス技研工業株式会社 代表取締役社長
児玉 宏寿氏
排水処理設備のアーパス技研工業株式会社(東京都中央区)は、工場、ホテル、レストラン、学校、医療・検査機関など様々な施設からの排水を確実に浄化する技術で多数の特許を保有し、中でも病院の排水処理では国内有数の企業だ。
今回は、児玉宏寿社長に、保有する技術の特色や市場での強みなどについて聞いた。
取材・構成/日刊建設工業新聞
社名は古代インドの水の女神に由来
同社は1985年に、児玉社長の父で現会長の児玉紀寿氏が創業。当初は水処理大手の藤吉工業の製品を扱うことを条件に、藤吉エンジニアリングの社名で営業していたが、10年たったのを機に、水を扱う会社らしく古代インドの水の女神「アーパス」に由来する現商号に変更した。
主力事業は、厨房、病院、工場の除害施設や処理水の再利用設備の設計、施工、メンテナンス。除害施設は、下水道法や水質汚濁防止法に基づく基準を超える汚水を排水する施設に設置が義務づけられている排水処理装置のことで、特に病院の病理検査や検体検査の排水、感染系排水、透析系排水の処理システムには定評がある。
「たとえば試薬を使用する検査器具の洗浄排水等には、酸性またはアルカリ性が強い汚染物質が含まれていて、金属やコンクリートを腐食させ、生物に対しても有害なため、中性化処理が必要となります。当社には、pH(ペーハー)を確実にコントロールし、排水を連続処理する装置を開発しており、除害施設の設置が必要な病院の半数以上に採用されています」
独自の工夫で水環境を守る
同装置は、薬液による処理水が基準値以下に中和されているか監視槽でチェックし、基準を満たさなければ原水槽に戻され、再び中和槽で処理する仕組みで、中和槽での滞留時間やpH異常に対し独自の工夫を取り入れている。
感染系排水では、比較的汚染リスクの低い排水の場合は、薬品注入による消毒、中和処理方式を採用。汚染リスクの高い排水の場合は、消毒・中和処理ではなく蒸気で加熱して減菌し、冷却した後、下水道に放流する。
東京国際フォーラムにも採用された中水道システム
一方、環境保全への関心が高まる中、水資源の有効利用の一環として排水を中水に活用する設備を導入する自治体や企業が増えている。
同社は、生物処理とろ過装置を組み合わせて厨房排水及び雑排水を浄化し、トイレの洗浄水に再利用する中水道システムを保有。直近では、東京国際フォーラムの改修工事にあわせ採用された。「専門特化しているため会社規模としては小さいけれど、これらの技術力に対する信頼、無借金経営の健全な財務状況などが評価され、排水処理工事では堅実に引き合いをいただいています」と児玉社長は述べながら、「当社の技術の特許期限が切れるなどして、他社も同様のシステムを投入するようになり、価格競争が強まってきているのも事実です」と語る。
さらに価格競争力を高めるため、よりコンパクトで同等の性能を発揮できる装置に改良。メンテナンスを含めたトータルシステムとして、採用を働きかけている。
「建設業界全体を見ると市場環境は厳しいですが、環境保全分野は伸びる可能性があると思います。将来に備え、人員の確保、育成にも力を入れる。50人規模の会社だけれど、一人一人が自負とやりがいをもって仕事に取り組んでいます。経営者として、社員が安心して働ける環境を維持していくため、採算を無視してやみくもに工事の受注を増やすのではなく、水環境の保全を通した〝社会貢献〟という意識で、地道で丁寧な経営を続けていきたいと考えています」と真摯に話す。
【取材後記】
古代インドの聖典「リグ・ヴェーダ」に登場する水の女神アーパスは、水そのものの象徴でもあり、健康、幸福、繁栄をもたらす神としてあがめられていたようだ。
児玉社長の話しから、その女神の名に恥じないよう、まさに生命の源である水の環境を守り、はぐくむことで、真の豊かさを追求し続けようとする使命感が伝わってきた。
[了]
本社所在地:東京都中央区日本橋小舟町4-4
設立:1985年
資本金:9000万円
事業内容:各種排水処理装置の設計・施工・管理
会社HP:http://www.arpas.co.jp/
児玉宏寿(こだま・ひろひさ)
1967年 東京都生まれ。1990年駒澤大学仏教学部卒。アパレル会社を経て1993年藤吉エンジニアリング(現アーパス技研工業)入社。同年11月取締役。2007年5月社長就任。
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
« カヤバシステムマシナリー(株) 石井 英勝氏| (株)竹中土木 市川晃央氏»
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