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「働く」建設WALKER×日刊建設工業新聞社

2012年06月29日

川田工業株式会社 橋梁事業部 技術提案室 課長補佐

江野本 学

2月12日に開通した東京ゲートブリッジ。 中央防波堤外側埋立地と江東区若洲を結ぶ全長2618mのトラス橋だ。 主橋梁部は鋼3径間連続トラス・ボックス複合構造で高さは65m。 恐竜が向き合ったようなその形状から別名「恐竜橋」と呼ばれ、東京港の新しいランドマークとなっている。 この両側径間トラス桁の製作、架設を担当したのが川田工業(株)だ。 計画から架設工事まで一連の業務に携わった同社・橋梁事業部技術提案部東京提案室課長補佐の江野本学氏に、同工事の特色とともに橋梁工事の魅力を聞いた。
取材・構成/日刊建設工業新聞

国内最大のクレーン3隻による相吊り一括架設に成功

側径間トラスは、東京都江東区の有明と千葉県富津市の岸壁で地組みした後、吊り能力が国内最大の4100tの『海翔』、3700tの『第50吉田号』と『武蔵』のフローティングクレーン3隻相吊りで輸送台船に搭載し、現地に搬送後、再度3隻相吊りで所定の位置に架設された。

16m間隔のトラス桁を現場溶接で継ぎ合わせる誤差の許容範囲はわずか±2mmだったが、実際には誤差ゼロと完璧。緻密な架設計画と徹底した工事管理の成果だった。

「施工現場は、航空制限、航路制限による平面的、立体的に限られたエリアで、クレーンのブームも最大に活用できず吊り能力が低下します。そのため3隻が必要となったのですが、大型のフローティングクレーン3隻相吊りによる大ブロック架設工事は過去に3例しかなく、直近でも2009年の施工時から16年前のことでした。

その時の操船者を含めた工事関係者の多くが退職していました。経験者もいない中で、コンピューターによる最先端の計測・制御技術などを駆使した架設計画をたて、吊り荷重と波や風による揺れに注意しながら3隻を同時に操船し、迅速、安全な工事を実現しました」と振り返る。

東京ゲートブリッジは“耐用年数100年を目指す橋梁”をコンセプトとしており、トラスの鋼材には大型案件で初めて、橋梁用高性能高張力鋼(BHS鋼)が採用された点でも話題となった。現在はJIS規格「橋梁用高降伏点鋼板(SBHS鋼板)に制定されている。

東京ゲートブリッジ側径間トラス一括架設全景(東京港内陸上から撮影)
撮影:山村行平(スカイフォト株式会社)

多くのビッグプロジェクトを歴任し、技術を磨く

江野本氏は、東京ゲートブリッジの数年前には、2006年に開通した台湾新幹線の橋梁工事(C250工区)に従事した。同橋は、新台中駅の南側に隣接する3連の鋼トラス橋で、2002年5月に同社が受注し、25カ月で製作、架設、床版工事を完了。江野本氏は施工管理のため、2年近く現地に常駐した。

「当社は、若い社員でも、プロジェクトを任せてもらえるチャンスが多い企業です。私も、比較的大きなプロジェクトを自分で計画し、現場に乗り込んでいるので、その一つひとつにやりがいを感じ、完成したときには何ものにも代え難い達成感が得られます」

大学で土木工学を専攻した江野本氏は「見える仕事をしたい」と、1992年に自身の出身地の富山県創業である同社に入社した。これまで橋梁事業部の工事計画部門と現場を行き来し、現在は総合評価方式で応札する際、落札を左右する重要な技術提案部分の資料づくりを主な業務とする部署に籍を置いている。

橋梁一筋20年。若手育成にも意欲

「新設の大型橋梁工事は減少傾向にありますが、バイパスなどの橋梁工事は継続的に発注されています。また高度成長期に建設され、老朽化している橋梁の架け替え、補修に対する投資の拡大が見込まれており、コストダウン、高耐久など社会ニーズに応えた独自の提案力や技術が、受注に不可欠となります」と語る。

江野本氏は、今年で入社20年。「私が培ってきた知識、ノウハウを次の世代に継承するのも、大切な仕事です。自分が先輩から教えられたような方法では、今の若手は育たないような気がします。いまの時代と若者の人生観にあった形で、知識、技術を伝えていきたいと考えています」と社歴の重みを感じているようだ。

【取材後記】
橋梁事業や建築鉄骨のリーディングカンパニーとして業界を牽引する川田工業。 橋梁分野ではこれまで、明石海峡大橋、多々羅大橋、瀬戸大橋といった数多くのビッグプロジェクトに参画しきた。 2月に開通した東京ゲートブリッジは、今年で80年を迎えた同社の歴史に新しいページを刻んだ。 景観を創り、その風景の代名詞となる橋梁の建設プロジェクトに携われる仕事の魅力が、江野本氏の言葉から伝わってきた。

[了]

<富山本社>富山県南砺市苗島4610番地
<東京本社>東京都北区滝野川1丁目3番11号
創業:1922年5月2日 
資本金:96億100万円
事業内容:橋梁事業/鉄構事業/建築事業/ロボティクス事業
会社HP:http://www.kawada.co.jp/

江野本 学(えのもと・まなぶ)
1970年富山県生まれ
1992年日本大学生産工学部土木学科卒、川田工業株式会社入社
これまでに上尾駅西口ペデストリアンデッキ(埼玉県上尾市)、大網川橋(山形県鶴岡市)、大石渡橋(秋田県能代町)、荒川横断橋梁(東京都)、台湾新幹線250工区(台中市)、田長瀬橋(奈良県十津川村)、東京ゲートブリッジ(東京都)などのプロジェクトに従事。

※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。

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東京ゲートブリッジ側径間トラス一括架設若洲側架設(トラス巻上完了)
撮影:木内徹(スカイフォト株式会社)

東京ゲートブリッジ側径間トラス一括架設若洲側架設(トラス固定中)
撮影:川田工業株式会社

東京ゲートブリッジ空撮
撮影:川田工業株式会社