2012年02月24日
日新工業株式会社 常務取締役経営戦略部長
相臺 志浩氏
2012年、創業90周年を迎える日新工業株式会社。
アスファルト防水を柱に多種多様な事業を手がける国内有数の総合防水材料メーカーだ。
近年は、防水の枠を超え『屋根の総合プロデューサー』を目指し、新領域の開拓にも力を注いでいる。
今回は、常務取締役経営戦略部長の相臺(そうだい)志浩氏に、防水業界の状況や製品開発動向、今後の事業展開などを伺った。
取材・構成/日刊建設工業新聞
他社の追随を許さない圧倒的な技術力
建設市場が成熟する中で、防水業界の事業環境は大きく様変わりしている。以前は、新築向けが同社の売り上げの約9割を占めていたが、いまは半分以上が改修向け。防水材料も従来主流だったアスファルトのほかウレタン塗膜、塩ビシートなど多様化している。
相臺常務は「特定の材料を扱うメーカーが多い防水業界の中で、当社は防水材料の総合メーカーとしての地位を築いてきました。お客さまのどんなニーズに対しても最適な製品、工法を提案できるのが当社の強みです」と自負する。
しかし、昨今の受注をめぐる、行き過ぎた価格競争と、原油価格の高騰に伴うアスファルトや合成ゴムなどの材料費の上昇が、経営に重くのしかかる。「上昇分をすべて販売価格に転嫁するのは難しく、採算性の確保に苦慮しています。業界を挙げて、ぜひ適正価格に対する理解をお願いしているところです」と切実な思いを打ち明ける。
一方、創業以来『良質で安価な製品を提供することでお客様の繁栄と社会の発展に貢献する』を企業理念の冒頭に掲げて事業を行ってきた同社だが、現在はどのメーカーも“良質で安価”をうたい文句にする時代。
相臺常務は「差別化を図るには“環境”や“ひと”に配慮した製品・工法が必要です」と強調しながら、開発方針について「アスファルトは、各種材料の中で最も高い信頼性を発揮する半面、工事中に臭いや煙が発生するという難点を抱えていました。アスファルト防水の草分けである当社には、他社に追随を許さない技術が蓄積されています。この独自技術を生かして難点を克服し、アスファルト防水のさらなる可能性を追求しようと考えました」と説明する。
企業のCO2削減活動にも寄与する製品開発
こうして生まれた製品の一つが『シグマートE』だ。従来のアスファルト防水工事は、重油バーナーなどで釜を約260度の高温に熱し、アスファルトを溶融して防水シートを形成する。これに対し、シグマートEは溶融温度が190度の中温のため、施工時の臭いや煙の発生を抑制できるだけでなく、CO2排出量を約5分の1、消費燃料を4分の1にそれぞれ低減できるのが特長。
もう一つは、水密性を維持したまま空気中の湿気で硬化する『プレストコート』。無臭・無煙で、火気が不要なことから、屋内、室内などでも施工できる。
「これらの製品は、当社が誇る技術陣の成果のたまものです。価格的には多少割高ですが、作業員や現場周辺の臭い・煙対策を軽減し、企業のCO2削減活動に寄与することを考慮すれば、十分相殺できます。低炭素社会の構築に寄与する防水材料として、普及に努めていきます」と力を込める。
“屋上マーケット”の創造と開発
製品開発とともに中長期の経営戦略として取り組んでいるのが、防水から派生した新しい屋上マーケットの創造・開拓だ。「緑化以外で屋上を利用している実例としてすぐに思いつくのが、デパートの子どもの遊び場や園芸用品売り場。でも一般的な建物や施設で屋上を利用している例はあまり見られません。屋上利用の潜在ニーズはもっとあるはずです。防水メーカーならではの発想と工夫で、デッドスペースになりがちな屋上を生かす提案を行っています」。
その主力商品が、ベルギーの企業と提携した屋外へのフリーアクセスフロア『PFシステム』。通常ベランダは防水の納まり上、室内の床面から下がったところに設けられているが、高齢者や小さな子どもにとってはこの段差が負担となる。PFシステムは、室内との段差を解消したフラットなベランダスペースを構築する。乾式浮床仕上げ工法で、仕上げ材を取り外すことができるので、防水層、ドレン配管類のメンテナンスも容易。すでに15年以上の販売実績があり、ホテルのバルコニー、学校のベランダなど多くの用途に採用されている。
昨年は、太陽電池モジュール設置システム『PVマルチシステム』を本格投入した。これまで太陽電池パネルは防水を考慮しない方法で施工され、漏水事故が増えてきているが、同社では太陽電池パネルを支える、防水層に十分配慮した支持脚を発売。施工実績も着実に増えている。
相臺常務は「今後とも日新工業としては総合防水材料メーカーであり続けるのはもちろん“屋上のスペシャリスト”“屋上の総合プロデューサー”を目指し、防水をコアにした様々なメニューを組み合わせて社会に貢献していきます」と未来を見つめる。
【取材後記】
日新工業の活動で忘れてはならないのが、“水コンペ”の通称で知られる『日新工業建築設計競技』だ。
相臺常務の誕生年と同じ1973年に始まった。
今年で39回目を迎え、表彰式では3年前から相臺常務が司会を務めている。
若き日にこのコンペで入選を果たし、その後、活躍している建築家も多い。
景気が後退する中、企業主催のアイデアコンペが次々と姿を消していったが、水コンペが一流の建築家への登竜門として、その存在価値がさらに高まっていくことを期待したい。
[了]
日新工業株式会社
本社所在地:東京都足立区千住東2-23-4
各拠点:東京 横浜 札幌 仙台 名古屋 大阪 広島 福岡
創業:1922年
資本金:8800万円
事業内容:アスファルト防水をコアとする総合防水材料の製造販売
会社HP:http://www.nisshinkogyo.co.jp/
相臺志浩(そうだい・ゆきひろ)
1973年千葉県生まれ。1997年明治大学経営学部卒、日新工業入社。
埼玉工場、山形工場、営業企画部を経て、2004年生産部次長。
2006年同部長。2009年取締役、2011年常務取締役経営戦略部長。
学生時代は、明治大学混声合唱団(明混)に所属。
現在もOB、OGが結成したコーロ・ディ・メイコンでテノールの一員として活動を続けている。
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
« (株)面川建機製作所 面川 栄四郎氏| 三建設備工業(株) 塩谷 正樹氏»
屋外フリーアクセスフロア『PFシステム』
湿気硬化型常温アスファルト防水『プレストシステム』
従来の3種アスファルト(溶融温度260℃)。かなり煙が見られる
日新工業が開発したシグマートE(溶融温度190℃)は煙が見らない。中温でも施工ができる
『第38回日新工業建築設計競技』で司会を担当する相臺常務