実物の設備を使って技術を習得
「中央学園の特色は、実際の設備を触って、体感しながら技術を習得できることです」。城處学園長がこう話すように、屋外、屋内には実物の電車線路(距離175m)や送電鉄塔(高さ20m)、送電・配電線路、発変電所、信号・通信線路、地下鉄・モノレールの剛体架線、建築電気設備、避雷設備、太陽光発電設備などがあり、工事現場と同じような環境で実習教育が行われる。
中央学園に課せられた最大の使命は新入社員教育。鉄道電気系は1年間、一般電気・情報通信系は半年間、全寮制で基礎技能・技術、社内外のルールや礼儀を尽くすことの大切さなどを学ぶ。
城處学園長は、「電気設備工事の仕事は、社員一人ひとりの力を集約することによって、良質な成果物を引き渡すことです。つまり人材こそが当社の存立基盤であり、人材育成策の第一歩という面から新入社員の間に基礎技術や企業人としてのマナーをしっかり身につけることが非常に大切なのです」と長期の全寮制研修の意義を説明する。
半年から1年と研修期間が長いためか、中にはすでに第一線に出ている地元の同級生などと比べ焦りを感じる社員もいるようで、城處学園長は、時間をかけて着実に技術や技能を覚える必要性を説くなど、親元を離れ地方から出てきた若者をあずかる責任者として、日ごろから入寮者の様子や体調に気を配っている。
社員のライフサイクルに合わせ段階的成長を促す教育システムを採用
中央学園には、職業能力開発促進法で定める認定職業訓練校のNDK技術学園が併設されている。NDK技術学園の教育は、中央学園全体の教育体系の中に組み込まれており、1年間の鉄道電気系の新入社員教育は『普通職業訓練普通課程』、半年間の一般電気・情報通信系の新入社員教育は『普通職業訓練短期課程』として実施される。また自社だけでなく協力会社、同業他社の社員も受け入れ、業界全体の技術・技能の向上にも努めている。
今年は、他社社員を含め鉄道電気系80人、建築電気設備・情報通信系25人の合計105人が寮生活を送っている。半年から1年の基礎教育を終えると、2年目は実際の工事をOJTで体得。その後は入社年数に応じて初級、中級、上級の専門教育のほか、資格・職位別教育により、社員のライフサイクルに合わせ段階的成長を促す教育システムを採用している。
現在の教育体系がスタートしたのは2000年4月。当時、建設業界、設備工事業界で、技術環境の急速な変化や現場作業の協力会社への移管などから現場責任者の技術力の低下が問題となっていたのを受け、優秀な電気設備工事の監督者の育成には、現場での技能力が不可欠と判断し、それまでの施工管理偏重から技能的要素にウエイトを置いた教育カリキュラムに見直した。
翌2001年4月、東京都から職業訓練校の認定を取得し「電設工技術学園」を設立。2010年11月には、認定職業訓練の実施状況がきわめて優良で、技能者の育成に貢献し、他の模範となる事業所と評価され、厚生労働大臣表彰を受賞した。ことし4月、創立70周年に向け新しいスタートを切るという思いを込め、校名を電設工技術学園からNDK技術学園に変更した。
訓練施設も拡充中で、第2教育棟、模擬高架線2線(在来線、新幹線)、鋼管柱型・コンクリート柱型携帯電話基地局などが順次、整備される。「これらの新しい施設、設備を活用してどのような教育を行うのか、ソフトの部分が重要になります。既存講座の改善、新講座の開設など、より効果的な教育体系に再構築したいと考えています」と城處学園長はいう。
1968年の開設以来、同社の技術を支える人材の供給源となってきた中央学園。施設、教育体系の充実で、人材供給源としての役割はさらに高まりそうだ。
求めるのは“人間力”のある人材
人材育成とともに、企業の未来を担う人材の確保も重点戦略の一つ。同社はここ5年毎年100人程度の新卒者を採用しており、2012年4月入社も、例年通りの採用を計画している。松井部長によると、入社希望者に求めるのは“人間力”。
「当社では、自社を“人間中心企業”と表現しています。電気設備工事は、機械やシステムなどが生産する装置産業ではありません。現場では、施工管理者としてリーダーシップを発揮し、何十人もの協力会社の作業員とコミュニケーションをとりながら高品質の工事を全うしなければなりません。このような人間力は、なかなか最初から備わっているわけではないので、資格取得をはじめ、あらゆる面で意欲があり、前向きに頑張る若者であれば、積極的に採用したいと考えています」。
ただ、近年は目標人数の確保に苦労しているようで、松井部長はその理由を「少子化で学生の絶対数が減っていることに加え、当社が主な募集対象としている電気系学科学生は、メーカー志望の傾向が強いようです。また学部学科の統廃合で大学の電気系学科自体が少なくなっているという実態もあるのではないか」と分析する。
城處学園長は、「建物は躯体だけでは機能しません。電気という血が流れて建物は生命を与えられます。鉄道の安全・安定輸送の一端を下支えしているのも電気設備です。電気設備工事は、使命感、やりがいのある仕事なのです」と電気設備工事の魅力をアピールする。
【取材後記】
電気・情報通信技術は日進月歩。技術の革新が、次の時代の社会基盤を形づくる。
しかし、しっかりとした基本技術、基本知識を身につけていないと、革新は生まれない。中央学園の理念は「未来を創る人を育てる」。
その理念通り、同社そして未来社会を支える人材を育成し続けてきた。
来年の設立70年周年の記念事業の一環で訓練施設とカリキュラムが充実し、さらに有用な人材が排出されることだろう。
[了]
日本電設工業株式会社
本社所在地:東京都台東区池之端一丁目2番23号 NDK第二池之端ビル
設立:1942年12月15日
資本金:84億9429万円 ※2011年3月31日現在
上場取引所:東京証券取引所市場第一部
従業員数:2126名(技術1734名、事務392名) ※2011年3月31日現在
事業内容:鉄道電気工事/一般電気工事/情報通信工事
企業ホームページ:http://www.densetsuko.co.jp/
城處 享弘(きどころ・たかひろ)
1977年4月日本電設工業入社
1994年5月中央支店電力支社工事事務課長
1997年4月人事部人事第二課長
2001年4月情報通信本部モバイル事業部副部長
2002年4月情報通信本部経営管理部長
2003年6月人事部長
2008年6月執行役員中央学園長
松井 克彦(まつい・かつひこ)
1992年4月日本電設工業入社
2001年4月秘書室付課長代理
2005年7月財務部資金グループ課長
2006年6月総務部法務グループ課長
2011年7月人材開発部長
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
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