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「働く」建設WALKER×日刊建設工業新聞社

2009年10月30日

株式会社安井建築設計事務所 東京事務所設計部設計主幹

熊谷 泰彦

東京駅日本橋口、永代通りと外堀通りに囲まれた『丸の内トラストシティ』。昨年11月に竣工した「丸の内トラストタワー本館」と、それに先駆けて03年9月に竣工した「N館」とのツインタワーが、日本の表玄関のランドマークにふさわしい景観を形成している。同プロジェクトの計画当初から設計に従事してきた一人が、株式会社安井建築設計事務所の設計主幹、熊谷泰彦氏だ。今回は、熊谷氏が建築家を志すようになった契機や、実際に建築家としての仕事に対する取り組み方などについてお話を伺った。 取材・構成/日刊建設工業新聞

安藤忠雄氏の作品に衝撃を受けた中学時代から20数年。
大規模プロジェクトを中心に手がけながら実力派の建築家としての力を磨いてきた。

建築家を志したのは中学3年生の時。高校入学時には大学で建築を専攻しようと決めていた。

子どものころから絵が好きで、新聞に一戸建て住宅の折り込み広告が入っていると、その間取り図を写していました。実際に設計のおもしろさを実感したのは、中学2年の技術の授業でお盆を製作したとき。アイソメ図を使うと、自分がつくろうとしているお盆が立体的に表現され、それが非常に楽しかったという記憶があります。

中学3年だった84年9月、安藤忠雄さんが設計した『タイムズビルI』が僕の生まれ故郷である京都の高瀬川沿いに完成しました。

当時の京都には珍しいコンクリート打ち放しでありながら、木屋町のまち並みと調和した商業ビルで、大変話題になっていました。「タイムズビルについて詳しく知りたい」と、初めて『新建築』を買ったんです。

建築家になりたいという志が芽生えたのはこのときだったと思います。高校入学時にはすでに、大学は建築学科を受験しようと決めていましたね。

志望通り早稲田大学理工学部建築学科に進み、大学院を修了した95年、安井建築設計事務所に入社した。

入社して1年たった頃、東京都目黒区第三特別養護老人ホーム『ひがしやまホーム』の設計を担当することとなりました。

上司の指導を仰ぎながらの業務ですが、完成した時(99年)には、基本構想から基本設計、実施設計まで自ら手がけた(作品なんだという自負がわき上がりました。

設計チームの中で、こうした実感や誇りを持つ人間が多いほど、建築の質も高まるものだと思います。

その後、虎ノ門4丁目計画(東京都港区)、トラストタワーN館・本館(東京都千代田区)、そして今年2009年に竣工を迎えたドレシア上池袋(東京都豊島区)と相次いで都心の大規模再開発プロジェクトの設計に参画する。

当社は、99年に森トラスト(株)と建築設計分野で業務提携を締結しました。その提携に基づいて当社が設計を行うこととなった第1号プロジェクトが、オフィス、住宅、商業施設からなる『虎ノ門4丁目計画』(02年竣工)です。

その次に携わったのが、同じく森トラスト(株)が丸の内1-1地区に第1期でオフィス棟の『丸の内トラストタワーN館』、第2期でオフィス・ホテル棟の『丸の内トラストタワー本館』のツインタワーを建設する一大プロジェクトです。

都市再生特別地区の都市計画決定を受け、従来基準を大幅に上回る容積率を確保し、東京駅の持つ歴史と文化を継承した新たなビジネス・交流拠点を創出しました。

『ドレシア上池袋』は、フィットネスクラブとスーパーマーケットを併設したハイラグジュアリーな賃貸マンションです。

オリックス不動産がUR都市機構の用地を定期借地して事業化し、2009年5月に竣工しました。ここでは、アートディレクターや照明デザイナー、ランドスケープアーキテクト、インテリアコーディネーターと協働し、豊かな暮らしとアクティビティーを享受できる居住環境を実現しています。

建築主の要求を建築的にかなえようとすると、往々にして法規や費用の面で問題が生じる。建築設計の醍醐味は、課題を解決し、建築主の要望を実現できたときにある。

建築主は、建物に対し抽象的にしろ、具体的にしろ、非常に多くの要望を持っています。

しかし、すべての要望を取り入れると、たいていは予算がオーバーしたり、法的に不適合だったりするなどの矛盾が生じます。

どうやって矛盾を解きほぐし、建築主の思いを実現するかというのはいつも難題ですが、とてもやりがいがあります。そして、建築主の真のニーズをくみ取り、最適な解決策を導き出して、建築主に喜んでいただける建築ができると、非常に大きな達成感が得られます。

熊谷さんは現在、新しい都市開発プロジェクトの構想、提案業務を手がける一方、国際コンペにも挑戦したいと考えている。

これまでの複合大規模開発での業務と様々な分野の専門家とのコラボレーションで得られた経験を生かして、まちづくりのあり方や総合的なデザインをさらに追求しながら、国際的に活躍できるチャンスがあれば積極的に取り組みたいと考えています。

国際コンペなどは、そのチャンスの一つとして可能な限り挑戦したいですね。複合開発やまちづくりの方法論には、国によって文化や宗教などの違いはあっても基本的な考え方に国境はないでしょうから、培ってきた手法やノウハウ、技術を海外の開発事業などにも役立てたいと思っています。

[了]

熊谷泰彦(くまがい・やすひこ)1970年京都府生まれ。95年早稲田大学大学院理工学研究科修了、(株)安井建築設計事務所入社。現在、東京事務所設計部設計主幹。設計作品に、東京都目黒区立第三特別養護老人ホーム「ひがしやまホーム」、虎ノ門4丁目計画、丸の内トラストタワーN館・本館、ドレシア上池袋。

※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。

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『丸の内トラストシティ』延床面積:本館115,379.68平方メートル(地上37階/地下4階)N館65,195.26平方メートル(地上19階/地下3階)。構造:本館S造(一部SRC造)N館S造(一部RC造, SRC造)(熊谷氏撮影)

東京駅に隣接する『丸の内トラストシティ』。オフィスや商業施設、観光インフォメーションセンターのほか本館・高層階には5つ星級ホテルを備える。ビジネスと観光の国際的拠点として機能するプレミアムシティだ(熊谷氏撮影)

北東・北西・南の3エリアに中高層の集合住宅、店舗、スポーツクラブを擁する『ドレシア上池袋』。総延床面積:約41,910平方メートル(地上5階〜22階/地下1階) 構造:S造・SRC造・RC造(熊谷氏撮影)

『ドレシア上池袋』幻想的な雰囲気を醸し出す“光壁”。ドラマやCM撮影のロケ地としても人気のランドマークになっている(熊谷氏撮影)

図面は今も手書きで描くことが多いという熊谷さん

設計案の社内レビューの様子

模型を前にして打ち合わせを行う