「働く」建設WALKER×日刊建設工業新聞社

低炭素社会づくりの実現のためには建築基準法をリセットして「社会資本整備基本法」のような総合的な新法の制定が必要と提言する。

建築家は日頃の設計行為の中で法律の矛盾を知りながら、ごまかす策は巡らせても、所管官庁への積極的な提言をしていません。国家資格者として現場を担っているのですから、常々、もっと対等な立場で行政に助言を与えるべきだと思います。業界団体は、なぜか管轄官庁に頭が上がらない。法律や制度は、人間がつくっているのだから、不備もあるだろうし、時代とともに改まるのは当然のこと。良い方向にしていくには、現場の声をちゃんと伝えて前向きに知恵を提供しないと。個人的には、現在の建築基準法をリセットして、社会資本整備のための法律や基準を新たに定めるべきと考えます。戦後の住宅の大量供給が目的だった現行の法制度では、民間業者の身勝手な開発は横行するし、建築基準法さえクリアすれば、非省エネルギー住宅も許されてしまうのですから、環境保全や低炭素社会づくりのための総合的かつ大規模な取り組みは大変難しい。地球温暖化を防止するには、2050年までに温室効果ガスを70%削減しなければならないわけです。

そのためには、個々の財産権だって我慢してもらわなければならないこともあるでしょう。金融システムだって今までとは全く違う価値観で考え直さなきゃならないでしょう。建築システムや市場までも変えていかなければならないのです。社会資本整備は国土交通省が行うという固定観念を捨て、環境省や経産省、消防庁、金融庁、法務省など、横断的な取り組みのできる社会資本整備庁のような組織をつくるとか、「社会資本整備基本法」というような新法に建築基準法を切り替えていくことを真剣に検討すべきではないかと思います。なかなか、業界団体は動かないですから、個人的なロビー活動を続けるしかないですね。

学閥、師弟関係の強い建築界に、それらとは無縁な善養寺さんは単身で飛び込み、表舞台に立った。そのエネルギーの源泉は、小学校時代に培われた何事にも挑戦する精神と、しがらみのない“無知の力”という。

無謀と思われることにもチャレンジしていく、この人格形成に大きな影響を与えたのは小学校4年生から卒業まで面倒を見てくれた小学校の担任の先生です。低学年までの通信簿には、おとなしくて消極的、行動が遅いと書かれていましたが、4年生以降は、積極的で良いがやりすぎで困る面があると評価が全く変わりました。その先生は、子どもがやりたいことを何でも認めてくれる人で、新聞を作りたいといえば、一緒にガリ版印刷を手伝ってくれたり、宝塚みたいに芝居をしたいといえば、演劇部をつくってくれたり、チャレンジする場を一生懸命提供してくれました。“本気でやれば出来ないことはない”という思考を植えてくれました。小学校時代の経験と、加えて、学歴、学閥、師弟関係がないためにしがらみに束縛されず、大学に行っていないのだから知らなくて当たり前、わからないことは素直に、聞く、習う、やってみるという"無知の力"で、正しいと信じた道を突き進んできたことが、今日の自分があると思っています。

[了]

ぜんようじさちこ。 1966年東京生まれ。東京都立工芸高校金属工芸科卒、東京都立品川高等職業技術専門校建築製図科卒。建築構造設計事務所、意匠設計事務所を経て、1993年綱島幸子設計事務所開設。1998年オーガニックテーブルに改称。共著に『家づくりの問答集』建築よろず相談(理工図書)など。現在、環境省中央環境審議会臨時委員、総務省消防審議会委員。
オーガニックテーブルのHP http://www.organic-t.com/

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※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。

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環境省の「学校エコ改修と環境教育事業」による第1回モデル事業となった北海道黒松内町立黒松内中学校(設計:アトリエブンク)。オーガニックテーブルは同事業の事務局を担当している。

アクティブ・エコハウスの概念図(原図です)