2008年10月17日
オーガニックテーブル株式会社 代表
善養寺 幸子氏 第2回
2004年に当時の小池百合子環境大臣の呼びかけで発足した環境ビジネスウィメンの第1期メンバーであり、現在、団体の事務局長も担うなど、いまや環境建築のオピニオンリーダー的存在となった環境と共生した社会づくりに取り組む善養寺幸子氏。インタビュー第2回では、氏の日頃の設計活動におけるポリシー、環境建築に対する想い、取り組みなどを余すところなくお伝えしていきます。
取材・構成/東山英一郎(日刊建設工業新聞)
(前回からの続き)
一方、私達の避難していた部屋は燃えて当然と思われる木製サッシで、室内側から外の激しい炎が見えました。消防隊の消火作業で、強い水圧がガラスにあたって熱されたガラスが冷却されて、ヒビが入っていくのがわかりましたが、壊れることなく、防火戸の役目を果たしていました。木製サッシも外装に使った無垢材の板張りも表面は燃えて真っ黒に炭化していましたが、熱で変形することもなく、内部に高温の熱伝導することもなかったために、私達の命も、コンクリートの構造体への被害も救ってくれていました。エコハウスのこだわりで、天然素材やエコマテリアルを使っていたことで有毒ガスも発生せず、煙による被害も免れていたこともわかりました。自宅の火災を経験し、建築基準法を疑いもなく信頼していたことを反省し、国の認定基準など法律に疑問を抱くようになりました。
大臣認定の偽装を金属工芸科の工業高校時代の経験からトリックを見破る。使命を与えられた気持ちで、社会活動に一層力を注ぐようになる。
被害を大きくしたアルミサッシの性能は20分の認定基準に達していないと気付きました。アルミの融点は600度。試験基準では8分しか保たない金属です。それがどうして20分の認定試験に合格したのか。金属工芸科出身の私にはそのトリックが想像つきました。高校時代、鍛造(金属板を叩いて、製品に作り上げていく技法)を学びました。銅の壷を作る際、加工工程の中で加工中の部分を火であぶり金属を柔らかくします。形作った部分は柔らかくしたくないので、そこには水を入れ、バーナーの熱を水に伝導させ、金属の融点への到達時間を遅らせるという作業をします。
この経験で、アルミサッシは枠の中にモルタルを充填して、そちらに熱を奪わせて融点を遅らせていると考えたのです。そのことを業界雑誌に書いたところ、試験に立ち会った建材メーカーの人から、その通りだと情報をいただいたのでした。建築士という国家資格者として自分たちは、国が守るべき国民の安心安全のための一役を担っているのだと思ってきたのに、あまりにお粗末な国の制度の実情に裏切られた気分でした。子供ともども死ぬかもしれない状況に置かれ、建築基準法の危うさを、身をもって体験させられたわけです。何か、神から使命を与えられたような気持ちになり、それ以来、社会的活動に一層力を注ぐようになりましたし、自分の信念で設計をしていくという意思は頑になりましたね。
善養寺さんにとって、建築家の職業観はサービス業。広く知られる立場になった今も、自分個人のためではなく、建築界や社会を良くするために、骨身を惜しまない。
人間とは意識が変わると、周辺の環境も変化するから不思議です。エコハウスを建てて、火災に遭って7年。今、私は、中央環境審議会と消防審議会と国の審議委員をしているわけです。私にとって、環境も防災も根幹は同じ。環境を考えた都市づくり、社会づくりを政策も含めて、しっかりつくりあげていければ、自ずと防災も防犯も社会不安も色々な問題が同時に解決していくと思えるのです。だから、社会活動も「エンジニアとしての知識で、みんなが喜ぶ"暮らし"をつくってあげたい」という、子供心に描いた建築士の理想のまま、続けているのだと思います。
未だに、この業界では環境技術に関心を示す建築家が少ないのが実情です。環境を掲げる有名建築家でも、素人騙しのイメージ先行で技術的には全然わかっていない方々が結構おられます。環境建築の知識の普及が重要だと思い、様々な方法で勉強会を行っているのですが、建材業者、建設業者の参加はありますが、建築家の参加が極めて低いことに寂しさを感じます。海外のアーキテクトと違い、日本の建築家に求められる職能は、デザインだけで許容されるものではありません。国家資格者としてのエンジニアリングを持って存在価値が認められるのです。私も日本建築家協会に所属していますが、建築家先生方にはもの申したいですね。社会や行政に対し、建築家をどう見てもらいたいかを主張する前に、社会から自分たちはどう見られているのか、国からどう取り扱われているのか、冷静に考え、謙虚に自分たちの姿勢を反省するべきだと思います。建築士法の改正では、意匠設計を担う建築家は安心安全を左右する重要なエンジニアであることを認めてもらえなかったわけです。基礎知識で好きにアートしててくださいとばかりに、あしらわれた格好です。建築家の社会的地位向上を謳うなら、社会の真のニーズとちゃんと向き合わなければならないと思います。 (次のページへ)
1 2
※記事中のデータ、人物の所属・役職は掲載当時のものです。
« オーガニックテーブル(株)代表 善養寺幸子氏 第1回 | 早稲田大学大学院教授 北川正恭氏 第1回 »
文京区Y邸 外観
文京区Y邸 リビング・吹き抜け
環境省の「学校エコ改修と環境教育事業」による第1回モデル事業となった北海道黒松内町立黒松内中学校(設計:アトリエブンク)。オーガニックテーブルは同事業の事務局を担当している。
環境省の「学校エコ改修と環境教育事業」による第1回モデル事業となった北海道黒松内町立黒松内中学校(設計:アトリエブンク)。オーガニックテーブルは同事業の事務局を担当している。
アクティブ・エコハウスの概念図(原図です)